「アンモナイトは神の意思」〜現生アンモナイト発見伝〜
どこかで聞いたようなタイトルだと思った方、深く詮索しないでください。
(笑)
はじめにお断りしておきますが、この物語はフィクションです。でもいつかはこ
うやってアンモナイトが発見される時が来るかもしれません。それは神のみぞ知
るといったところでしょうか。
1999年の2月初旬のことである。U.S.Aの友人、Tacker Young氏から“こんな
情報があるけん”(彼は広島育ちである)というメールが届いた。化石を趣味と
し、雑誌記者の彼が送ってきたメールの内容は、ノルウェーの沖で操業していた
漁船の底引網にオウムガイのような、巻き貝のような奇妙な生物が2体かかった
ということだった。しばらくは水槽の中で生きていたが、1週間ほどでいずれも
死んでしまい、殻の写真とホルマリン漬けの標本が残された。その写真を見た彼
は、もしかするとこれは絶滅を免れたアンモナイトではないかと直感したそう
だ。どうしても真偽を確かめたいと、彼は直接現地へ取材に行ってみることにし
たという。
アンモナイトの絶滅した原因はよくわかっていない。ペルム紀の大絶滅を生き
延び、中生代に大発展を遂げたアンモナイトであるが、白亜紀末に恐竜や他の海
性爬虫類などと共に滅んでしまったとされる。しかし近縁のオウム貝は生き延び
た。アンモナイトに駆逐され、深海へ移住を余儀なくされたことが結果的に幸い
し、あまり環境の変化を受けなかったのだと考えられている。一方、浅海で多様
な進化を遂げたアンモナイトの方は環境の激変をもろに受けてしまったというの
が定説である。
しかし、あれほど多様な進化を遂げたアンモナイトの中に深海型の種類がいな
かったのだろうか?不思議な気がしてならない。常々、彼は私にこう言ってい
た。
Tacker:きっと我々の知らない深海に今もアンモナイトは生きているけん。
高やん:そうかのー、シーラカンスのようにかあ?
Tacker:そやけん、高やんも深海挺で一緒に探しに行くんじゃ。
高やん:んなん無茶や。まだ海の藻屑にはなりとうないでー。
ちなみに私は子供の頃、藻屑とはあの食べるモズクのことだと思っていた。だか
ら違うとわかるまでモズクは怖くて食べられなかった。(笑)
すみません、脱線しました。深海というのは確かに魅力的である。でも暗いだろ
うなぁ、怖そうだなぁ、お金もかかるだろうな、というわけで遠慮しておく。
3月中旬、彼は現地に向かった。標本を保管していた漁船の乗組員の話による
と、この生物が網にかかったのは水深200mほどで、海底には断層があちこちにあ
り場所によっては400m以上の深さにもなっているらしい。この近くに住む島の住
民は昔からこの生物を知っており、嵐の後などにごく稀に海岸に打ち上げられて
いるのを見たことがあるという証言が得られた。おそらくこの未知の生物は普段
かなりの深海に生息しており、たまたま水面近くに上がってきたのを採集された
のだろう。
そしてついに彼はホルマリン漬けの標本と殻をもらい受けることに成功した。
彼が見た限り、頭足類には間違いなく、触手は8本、タコブネ(アオイガイ)と
は明らかに違うとのことだった。オウムガイなら触手は50本以上ある。殻は非常
に薄く、表面に肋や条線は見られないが、吸盤のような竜骨状の突起物が並んで
いる。その殻は私に送られてきた。これがそうである。