この画像は東海大学自然史博物館のSさんのご好意により、地学関係の学芸員のメーリングリストで 紹介された。しばらくして、豊橋市自然史博物館のYさんより現生のツルナの実ではないかとのご指摘を 頂いた。あいにく手元にツルナの実の資料が無かったので比較できなかったが、わざわざYさんが実物を 送ってくださった。送って頂いた標本は見た目はドングリをちょっと偏平にした感じで、上部は王冠のような 刺状になっている。表面の皮を剥くと私が採集したものと同じ硬い内部が現われる。 これが現生のツルナである。

学名:ツルナ Tetragonia Tetragonides (Pall.) O.Kuntze ツルナ科ツルナ属
 海岸の砂地にはえる肉質の多年草。果実は木質で硬く、数個の角状の突起がある。中は数室にわかれ、 各室に1個の種子を入れ、裂開しない。北海道西南部〜琉球にみられ、太平洋の沿岸一帯に広く分布する。 葉を食用とするため栽培されることもある。


Fig.5
現生のツルナの実。高さ約13mm。
正面なのでわからないが、この標本には刺は5本ある。

Fig.6
ツルナの実を少し削ったもの(上面)。
表皮を剥ぐと鋭い刺が現れる。
種子が入っているのが観察でき、8個もしくは9個と思われる。

Fig.7
完全に削ったもの(上面)。
種子の抜けた跡が穴になっている。
刺の数、種子の数には個体差がある。
この標本は刺が4本で種子穴は7個。


 というわけで、正体はツルナの実とわかった。それにしてもさすがである。専門家だからと言えばそれまでだが、 たとえツルナの実を知っていても外見だけではわからない。その内部だとわかるのはやはり植物の専門家 ならではだろう。Yさんによると外側のやや軟らかい部分は花托(かたく)と言い、削った内側の部分は果皮 にあたるのかもしれないとのことだ。

 あとは化石かどうかである。その後、千葉県立中央博物館のSさんから現地で実際にツルナを確認、 その実を採集したというメールを頂いた。だとすればやはり現生の実が流されてきたものだろう。 植物化石の場合、炭化して圧縮されていることも多いらしいが、私の標本は刺の部分が摩耗しているくらいで、 炭化も圧縮もしていない。ただ不思議なことに送って頂いた現生の実は水に浮き、私の標本は沈んでしまう。 化学的な置換作用が進んでいるのかもしれないが、それだけでは勿論、化石だとは断言できない。 あとは燃やしてみる手もあるが、もしツルナの実によく似たエイリアンだったら・・祟りが怖いので止めておこう。 (笑)

 頭から化石だと思いこんでいたので、現生の植物の実とはちょっと拍子抜けだが、なまじサメの歯の化石を 採集するよりもずっと楽しく、いい経験になった。ご意見・ご協力を頂いた多くの皆さん、本当に有り難う ございました。

管理人より一言:
私もこの標本の実物を見せていただきましたが、実に不思議としか言いようのない
ものでした。まさか現世物とは・・・・
化石採集を長くやっていると、こうやって周囲の人たちを巻き込んで大騒ぎする
こともままあることです。そういう時って一番楽しいですよね。私にも経験があります。
そのお話は又の機会に・・・・

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